覚醒する瞬間にぎゅっと目を閉じた。布団を跳ね除け、目を開く。平たい胸、角ばった身体、脚の間には懐かしいそれ。男の身体!

「イザーク!戻った!男に戻れた!」

枕に埋まって眠る肩をつかんで揺さぶると、なんとなく、既視感を覚えた。手のひらに触れるその感覚。そっと布団をめくり、天を仰ぐ。今度はイザークが女の身体になっていた。
暴れるのをなだめながら部屋を出る。友人たちは今日は二度見はしなかった。戻ったんだな!と言われ、ああ、だけど今度は…と隣を示すと、そこでようやく気づいたようだ。
「在るべき形って感じだな…」と、言ったミゲルは、もちろんイザークに殴られた。ラスティは「いつも通りすぎて逆に勃たねえわ」と言い、股間を蹴り上げられていた。容赦ないなイザーク… 「昨日は人形のカップルって感じだったが、今日はモデルみたいだ」とアスランが言う。「せっかくだしリボンでもつけますかイザーク」と、これはニコル。昨日の今日なので、もはや不思議イベント扱いになっている。しかし今日は俺も当事者ではなく、他人事なので、一緒になってハハハと笑い、まとめてイザークにどつかれた。
見せ物はご免だと渋るのを、いちおう昨日と同じことをしておこうぜと説き伏せて、ゆっくり歩いていく。例外なく人が振り返る。イザークを見ている。だけど、これは、俺のなんだぜ。自慢したい気持ちと優越感、これは高揚するな。男と女ではこっちの意識も違ってくる。例によってイザークはゴミ袋にあふれんばかりのラブレターを抱え、前が見えんと怒鳴っていた。昨日のイザークの気持ちがちょっとわかったような気がする。
だけど、と、そのうちに不安になる。男同士でも昨日も、イザークが主導権を握る側だったからイザークはやる気になったんじゃないか。今日はイザークは女で、俺が男だ。もしかしてやりたくないかもしれない…友人たちにはこっそりとがんばれって言われたけど、ありがとう、でもごめんみんな、俺多分無理かもしれないや。

部屋に戻ると、イザークは上着とズボンを投げ捨て、シャツを脱いだ。ベッドに転がりぶつぶつと何かの文句をつぶやいている。俺はイザークの服を拾い、ハンガーにかけた。
自分のベッドにあぐらをかいて、イザークを眺める。だめだ…にやけてしまう。自分の部屋に女の子がいて、無防備な格好で、しかも素材はイザークだ。夢のようじゃないか… にこにこと見ていると睨みつけられる。「何がおかしい」 いいや、おかしいんじゃない。楽しいんだ。「抱きしめていい?」 問うとイザークは眉間にしわを寄せたが、昨日のことを思い出したのか、黙ってベッドを移り、俺の膝にどんと座った。すごい、幸せ独り占めって感じだ。けっこうな時間をそのままで過ごし、もういいだろうと言われて名残惜しく手を放した。
「…あのさ、イザーク。昨日は俺、抱かれたよな」 うなずくのを見、勇気を出して言ってみる。「じゃあ今日は」「抱かれるなどご免被るぞ」 あっやっぱり…がっかりする、間はなく衝撃に揺れる俺。イザークが身体ごとぶつかってきたのだ。なすすべなく倒れた俺を踏みつけるようにしてイザークは立っている。

「勘違いをするな」
「えっ…何が…」
「抱かれるなどご免だと言ったんだ」

イザークは傲然と言い放った。

「俺がお前を抱くんだろうが」

女王様という例の尊称はイザークのためにこそあるものだと俺は悟った。これは絶対に間違っちゃいない。俺の確信する真理のひとつだ。
そのあとのことは、そう…スペクタクル、とだけ言っておこう。感動と興奮だった… 俺は眠りに落ちる寸前、明日もイザークは女の子でいい、と思った。






そうか、クルーゼ隊に直せばいいんだ。いつか直そう
20110301