俺は女じゃないと言えば知っていると返す。こんな骨ばって筋張ったごつい重い硬い女がいてたまるか、と。そんならどうして女にすることを俺にするのさ。
それをされた次の朝にはいつだって同じことを思う。死んでも嫌ってほどじゃあないが、気は進まないし、なるべくしたくない。気持ちいいけど。気持ちはいいけど、痛いしだるいしー。今日も今日とていつもの気分をかみしめながら身体を起こすと、胸のあたりが引っ張られるというか震える感じがした。ふっと見下ろすと、胸があった。
胸があった。胸っていうか乳、というか、乳房?男の夢とロマンとマシュマロがつまった、あの胸が。俺の胸に。
思いきり布団を蹴り上げると、果たして、脚の間に息子の姿はなくなっていた。広げた手のひらの指が細い。抱いた肩は丸く、腰も丸い。脚がなんだかしなやかだ。

「イザーク!イザーク!」

隣で寝ているやつを叩き起こす。「今起きたら胸があったんだけど何だこれ!」 もそもそと起き上がったイザークは、寝起きのいかにもな目つきの悪さで俺の顔を見、胸を見、下を見た。「…ディアッカ?」「そう」 押し倒された。
男のままでも結局は敵わないのに、ましてや女じゃ結果は見えてる。頭のどこかは妙に冷静にそんなことを考えていたが、大部分はそういうわけにはいかなかった。そもそも女になっていたパニックだってまだ消化しきれていないのに。くそ、とりあえずでこいつを起こしちまったから。まずったな。
ばたばたと足を振り回し、昨日の夜よりごつくなったように思える肩を押すが、びくともしない。首筋を舐められて皮膚じたいが薄く、なめらかになっているのを感じる。なぞられる腰のラインがおかしな感じだ。胸の先端はあまり触られなくてもすぐに硬くなった。やめろと訴える自分の声が、高くて甘い。
中心が濡れているのが恐ろしかった。ほぐしたり塗り込んだりの手間がいらなきゃ、それはもちろん事はさくさく進むよなあ。入ってこられたときにはそりゃあ痛かったが、後ろと比べればずっとスムーズではあった。ほんとうに「中」をかきまわされているという感じがした。当てはまっている感じがした。あとはもう何もかもわからなくなったが、上りつめてもあからさまには出るものがないのは本当に妙だと少し思った。
終わったあとで泣いていると抱きしめられた。お前順序が逆だろ… シーツに血が落ちているのを見つけ、バージンを2回もこのきれいな男に持っていかれたと知って、なんだかなあと思ったりした。もう諦めてるけどさ。

シャワーを浴びてから着替え、部屋を出た。制服がそのまま着られたから身長はそう変わってないと思うけど、全体的にぶかぶかしていて、裾も少し引きずる気がする。ウエストときたらベルトの穴が全然届かず、適当なひもで縛るはめになった。
友人たちには二度見された。「イザークが女に見えなくなった」とミゲルが言い、イザークに殴られていた。俺は「1回でいいからやらせて」と目を輝かせるラスティを殴り飛ばした。「だけど、危ないと思う」と、言ったのはアスランだ。それは俺もそう思う。男と女では骨格から違う。事実、制服の肩は余っているし、首元は上まで留められないので少し開けている。長さは変わっていないはずなのに、袖口から見えるのは指先だけだ。男は総じて大きめの男物を着ている女に弱いものだ。俺は自分を見下ろして、これが自分でなけりゃな、と思った。「自分で思ってるより多分、もっとずっとですよ」と、ニコル。曰く、顔が女の子になっている、らしい。全体的に小さく、ラインはすっきりとしていながら甘く、唇はみずみずしく頬は桃色、肌は思わず触りたくなる感じで、目がでかい。そ、そんなに女の子なのか…鏡見てる余裕はなかったからな。しかし友人どもは全員うなずいている。
うろついていないで部屋に帰った方がいいと勧められたが、部屋に戻ってもどうしようもないのだ。ていうか帰ったらまた襲われる気がする。仕方ないのでもしもの護衛として友人たちにもついてきてもらい、適当に歩き回った結果、諦めがつく頃には俺はラブレターでいっぱいになったゴミ袋を引きずって歩いていた。ここのやつらはなんでこんなに順応が早いんだよ。目が覚めてすぐにやった俺だって他人のことは言えないけど、男が女になったのに…どんだけ速攻で書いてきたんだ…身体が女でもあくまで俺だぞ! 訴えると、友人たちはみんな微妙な半笑いをよこした。ゴミ袋の中身に不機嫌になるかと思ったイザークは、予想に反してわりと機嫌がいいらしい。

部屋に入るとさっそくベッドに陣取ったイザークに手招きされる。なんか、もう、いいか、どうでも。売られていく仔牛の気持ちで身を任せると、イザークは上着を脱がせ、上のシャツとズボンも脱がせて、軽く抱きしめる。女物の下着なんてないからタンクトップとシャツを重ねて着、下は普通にいつものパンツを履いていたが、まるでショートパンツ状態だ。そのままでじっと動かなくなるから、やっぱりこいつはわからない。「あれはお前、とりあえず唾つけておくのは必然だろうが」 知るか。
「今は華奢な感じを楽しんでいる」 ああ、もう好きにしてていいよ… しかし、確かにイザークの身体がいつもよりも、たくましい?ごつごつしている?ように感じる。腕の中にすっぽりと納まってしまうのが、居心地悪いような、心地よいような、まったくもって変てこだ。速くなる鼓動を知られたくなくて、脂肪のかたまりに感謝した。きっとこれらはこのためについているんだろう。男を相手取る立派な武器だ。
体温が混じり、同じになってからしばらくして、キスをされた。そのままもつれて、倒れこむので、やだよと言って押し返す。「何が」「だってお前、ゴムもないのに、子どもできたりとかしたらどうするよ」「生め」「いやっ…そういう…そうじゃなくて…いつまで女でいるのか、これからどうなるかもわかんねーのに」「ディアッカ」 青色のひとみが俺を見据える。「俺が、お前が女になった程度で、抱かないとでも思うのか?」 男前だなイザーク…いや、違うけど、ここまで言い切られるとこっちが間違ってる気もしてくるぜ…
イザークが額に唇を当てる。俺は手を取り、指先にくちづけた。こうして見ればこの指も、節くれだっていて、皮が硬い。

「戻れなかったらどうしようかな、俺」

もしもこのままなら、とイザークは言う。「嫁に来い。ディアッカ・ジュールになればいい。無論、夫婦別姓を望むなら俺は受け入れる」「嫁って、なあ…」「何だ、いやか」「や、別に…お前って、現実的なのか夢見てるのか、いまいちわからんよね」「結婚しよう」「わかった」
二人して抱き合い、笑い合った。嗚呼こわいなと俺は思った。幸せすぎて怖いな。このまま眠って、明日目が覚めたら男の身体に戻っていればいいと強く願う。このままじゃ夢を見続けてしまう。期待してしまう。その前に、早く。俺は女の子じゃない。






アカデミーで面識ないよなみんな ファンアートです気にしないでください
20110301