その制服の色には相応の意味があり、意味があるからには重さがある。立場が上になればなるほど形式や形骸や、よくわからない何かどろどろしたものには煩わされるし、それでいて中身はまるでからっぽだったりもして、完璧主義でプライドの高いイザークは何も言わないが、責任にまとわりつく煩雑なことごとは、きっとその神経を少しずつ削っているのだろう。イザークという男は、あれで結構繊細だ。 「…だからって、こういうのはどうかと思うけどね」 ディアッカはぽつりと言った。途端、イザークがぎらりと睨みつけてくる。 「お疲れの上官を労わる心はないのか、貴様」 「あるからこうしてじっとしてあげてるんじゃない?」 ディアッカは肩をすくめる。あーあ、奥まった所にあるとはいえ、公共の場所だっていうのに。中途半端に空いたスペースに、とりあえず自販機と長椅子を置いてみましたというような休憩所、その椅子に腰かけていたディアッカは、向こうからやってきたイザークが隣に座り、身体を倒すまでを黙って見ていた。膝枕をさせられた格好になっている。制服しわになっても知らねーぞ、とディアッカは思った。 「男の足なんて枕にしても、あんまりよくないだろ」 「硬い」 「誰か来たらどうすんだよ」 「煩い」 「…なあ、こういうのってやめた方がいいぜ」 ディアッカは言う。俺なんかもさ、けっこうひどく言われてるのよ。お前の贔屓で引っ張られたとか、情をかけられて置かれてるとか、なあ、知ってるか? お前に身体で取り入ってるとか。それってどっちだと思ってんのかな。多分絶対逆だろうけど。やんなっちまうね、ただでさえ腰は痛いのに、胸まで痛くなりそうだ。なあ、わかってる?お前のせいだぜ、やだよ俺、お前のファンに刺されるとかさ。 柔らかい声を聞きながら、イザークはそっと目を閉じる。ディアッカはイザークを責めるふりで、イザークの立場を案じている。上に行けば行くほど瑕は探される。単なる恋愛でも醜聞になりうるのに、同性同士ならば何をかいわんや。それを考えろとこの優しい男は言っているのだった。それだけ傷つけられているはずの自分のことは、どうということもないみたいにして。 「なあ、イザーク、聞いてるか」 イザークはごろりと転がり、ディアッカの腹に顔を埋める。聞いてねえな、このセクハラ隊長は。苦笑をふくんだ声は相変わらず柔らかい。イザークだって人の目も体面も承知している。ディアッカを傷つけたくもない。だから離れなければと強く思い、だけど、離れたくないと強く願う。結局、どちらにも動けないまま、イザークは目を閉じるしかできない。きつく、きつく。 ディアッカの手が髪を梳く。からめるように。癒すように。境が溶けていくような心地を覚え、ゆるくたゆたう世界の中で、やわらかな膜に護られている。硬いからだと優しい感覚に否応なしで身を任せ、そのままゆらゆらと、頼りなく、とめどなく、今のこのときを無為に漂うばかりでいる。 20110301 |