「イザークって誰のこと?」



起き抜けに出し抜けに言われて思わず変な声が出た。いつのまにか突っ伏して寝ていたテーブルに肘を立て、口元をぬぐうディアッカを眺め、頬で赤くなっているボタンの跡を見て、おもしろいな、とキラは思った。



「誰って…」

「寝言で言ってた。すごく小さい声だったけど、何度も繰り返していたみたいだから」



ディアッカは、口を開き、閉じた。今は協力めいたかたちになってはいるが、しかしこんな敵地(?) の真ん中において、自軍の情報などは特に秘匿されなければならない。



「…昔飼ってた猫だよ」

「死んだの?」

「しっ…にましたよ、ああ、昔のことだからな。だが言っとくが俺の膝の上で大往生だったから。喧嘩とか怪我とか事故とか事故とか事故なんかでは断じてないから」

「そ、そう?」



 キラはディアッカのかもす妙な圧力に首をかしげた。



「眠りながら泣いているようだったからさ」

「…目にゴミが入ったんだよ」

「…寝てたんだよな?」

「俺わりと目ぇ開けて寝てるのよ」



あーあ、と、ディアッカは思った。だっせえの。泣くくらいなら帰ればいいのに。それをしないと決めたから、俺は今ここにいて、向こうと対峙しているんじゃないか。勝手に離れて、勝手に決意しておきながら勝手に泣いて、勝手に名前を呼ぶなんて。阿呆だな、俺。ディアッカは少し笑おうとしたが、あまりうまくはいかなかった。

イザークは泣かないだろう、とディアッカは思う。俺のために泣くイザークなんて、正直きもい…いやマジで…引くな。うん、…うわ、ないわー…  …だから泣いてない。きっと泣いてない。泣いていないでイザーク。ため息に喉の奥の熱をまぎらせ、吐き出した。泣かないでイザーク。

ここはさむいなとつぶやくと、うたた寝なんかしてるから風邪をひいたんじゃないか、早く戻った方がいいとキラは心配そうに言う。ありがとう、だけど違うよ。ここは寒いなあ。お前がいないから寒いな。早く色んなことがいろんなふうにちゃんと片付いたらいいんだけどな。そうしたら、俺はもう、お前とずっと一緒にいるのに。二度とこんなふうに離れたりしない。お前と一緒なら、俺はどこだって寒くないのに。









20120427
ウワアアーッふつうにラブげになったアアーッ ギイヤアアーッ