「お前のセックスは文字通りのひとりよがりっていうか、ほぼ自慰っつうか、痛いし、苦しいし、そもそもからだの相性あんまりよくねえんだと思うんだけど、でも俺はお前が好きでお前としたいからしてるんだけどもしかしやっぱり痛いのはどうしたって痛いのだ」と、いうような意味のことを言ったら殴られたあとでキスされた。その前にはしばらくこめかみを押さえていた。俺の大好きなあいつの脈打つこめかみを押さえていた同じ指が、俺を殴り、顎に添えられる。その指はさっきまで俺のからだを好きになぞったり、食い込むほど強くつかんだり、していたのとも同じ指で。なんだかくらくらした。 そもそも言いたくて言ったわけじゃなかった。ことが終わったあとに「最中に喚いて暴れるのは煩いし萎える、せめておとなしく、黙るか喘ぐかにできないのか」と、いうような意味のことを言われたので、それに対する反論として言ったのだ。そういうこと(文句?) を言われるのは当然だと思った。そりゃそうだよな、雰囲気のないセックスなど気の抜けた炭酸とおんなじだ。だが反論も正当だとも思っていた。そうして殴られるのも、キスされるのも。当たり前だらけだ。当たり前じゃないこんなかたちから連続していくことごとがこんなにも自然にからだになじむので、そのうちに、くらくらがぐらぐらになる気がする。 そんなことばかり考えていて、「なら、やめる」ということばの後ろにクエスチョンがついていたかどうか、見逃してしまった。だから俺は、ああ、うん、と、曖昧にうなずいた。そしてうなずいた首を上げないままで、「だけど、できれば、俺はそれだと悲しいな」と小さい声で言ってみると、まず頭をはたかれた。それから撫でられた。それはとても気持ちがよかった。 これだ。これなのだ。痛いことも苦しいことも好きじゃない。だけどそこにはこれがあるのだ。もっと体の相性のいい相手などいくらでもいた。けれどもそこにはこれはなかった。これなのだ。名づけるとすればきっと、幸福、が一番近く、でもやはりそれだけでは括りきれないもの。それこそがこれだ。これが、つまり、お前なんだよ。お前がそうなんだ。わかるかな。 お前の指先がひとつ触れる、それだけで、俺はこんなにも、ご覧の通りさ。苦しいのだけどつらくはない。こどものように駆け出したいような、声を上げて泣きたいような、それでいて笑いたいようでもあり、こどもみたいに指の先まで明るい熱で満ちている。 祈りたくなるんだ。何へなのかは知らないけど。こんな気持ち、お前はわかってくれるだろうか。
20120401(0329)
イザークは下手そうだと思うのです……これで一応おめでとうのつもりで書いたんですよ。どうしてこうなった。 |